2012年5月28日月曜日

和田中学校で授業のお手伝いしてます。


今年度から、杉並区立和田中学校の総合学習授業の設計に関わっています。

今日も打ち合わせで和田中に行って来ました。

校長室で打ち合わせをしていたのですが、それが終わると、生徒たちが校長室に雪崩れ込んできました。下は椅子をとられて困っている校長先生。


和田中学校の校長室は基本的にオープンで、生徒でも気軽に出入りできます。マンガも置いてあります。校長先生と生徒の距離はめちゃくちゃちかいです。下は生徒が校外学習でつくった干物をお土産でもらい喜んでいる校長先生(顔ぶれぶれ)。



★★
和田中学校は、リクルート出身の藤原和博さんが民間校長を務めていたことで有名です。

藤原さんは、都内初の公立中学校の民間校長として、PTAの廃止、大手の進学塾講師を学校に招いて有料で補習授業を行なう「夜スペ」や、地域の大人を授業に巻き込み自営業者やホームレスを講師に迎える「よのなか科」などを実施し、公立学校の常識を覆してきました。

いやはや、規則と慣習でガッチガチの公立学校でこれをやったのは本当にすごい。よく考えると、リクルート×公立中学校っていちばんミスマッチな関係のような・・・笑 藤原さんが校長に着任した時点で革命は始まっていたのでしょうねぇ。

★★
藤原さんは2008年3月に退任され、後任には再びリクルート出身である代田昭久さんが就任されました。僕はこの代田先生とともに「よのなか科next」という授業の企画設計をしています

この授業は総合的な学習の時間に行います。3年生は、隔週で2コマずつ約25回(年間約50コマ)、1,2年生は、月1回の年間10コマをよのなか科nextに使っています。

なぜ僕が「よのなか科next」のお手伝いをすることになったのかというと、この授業と、僕の研究対象である「討論型世論調査」の設計思想が非常に似通っていたからです。僕の親しい後輩が研究の関係で和田中学校に出入りをしていて、討論型世論調査とよのなか科nextの親和性に気づいて、僕と代田先生を引き合わせてくれたのです。

「よのなか科next」は、「今の生徒たちが10年後、必ずや直面し解決していかなくてはならない社会の重要なテーマ」について、個別学習・グループ学習・全体学習を組み合わせて、生徒の【考える力】【伝える力】【聴く力】を伸ばし、社会で活躍するために必要となる、【他者と対話する力】を培うことを目的としています。

他方で討論型世論調査の目的は、世の中で意見が対立している政策課題について、一般の市民が【話し】、【学び】、【考える】というプロセスを体験することで、その問題についてじっくりと自分の考えを深める機会を提供することにあります。具体的にはランダムサンプリングを経て200〜300人の市民を集め、資料やデータの提供、市民同士の討論、専門家との質疑応答という「熟議」の機会を提供して、熟議の前後で市民の意見がいかに変化したのかを検証します。

僕は2009年の秋から曽根泰教先生のもとで討論型世論調査の企画設計や運営に関わってきました。2010年には藤沢市で2度の調査を行い、2011年には日本で初めて全国規模での調査を実施しました。この調査で得たノウハウで誰かのお役に立てないかなと思っていたところ、代田先生と出会ったというわけです。運が良かったです。

★★
今年度の「よのなか科next」では、これまで「風評被害問題」と「がれき処理問題」を扱いました。がれき処理問題の回はNHKのニュース9などで取り上げられました。(こちらのブログで報道の様子が紹介されています)

よのなか科nextでのアンケート結果は後日分析を行い、公表する予定です(代田先生や研究パートナーと相談中)。また、よのなか科nextの授業によって生徒たちにどのような変化が生まれたのかも、継続的にアンケートをとって検証していきます。

次回の「よのなか科next」は原発再稼働問題。現在鋭意準備中です。こちらのブログでも授業の内容をご紹介できればと思っています。

最後に校長先生と生徒さんたちの写真を一枚。

こういう雰囲気の学校だから、心から「お役に立ちたい!」と思えるのでしょうねぇ。

それはそうと、頭に巻いてるのは何だろう?(笑)





2012年5月21日月曜日

「本を肴に、美味しいお酒と料理を楽しむ」イベントを開催しました

先週18日(金)、院生仲間5人でイベントを開催しました。

イベントのコンセプトは「本を肴に、美味しいお酒と料理を楽しむ」。
立川の小さなカフェを借りて、2週に1回のペースで3ヶ月ほどイベントをやっていきます。

会場はこんな場所。定員は15人ほど。


リビング・ダイニング風のキッチン。メンバーが料理を振る舞います。


飲み物のメニューとイベントのご挨拶。


紹介する予定の本はこんな感じでディスプレイ。


このイベントの中心は”Book Jockey”という本のレコメンド手法です。
(手法といっても僕らがこのあいだ考案したもので、全く広まってません笑)
Book Jockeyは、DJが音楽をremixして途切れなく音楽を流していくのと同じイメージで、数人のBook Jockey(BJ)が1人3分で自分が選んだ本を紹介し、それを途切れなく連続で行なっていくというものです。

ここに並んでいる4人がBJです。
ビールを片手になごやかな雰囲気。


いちばん右から石橋一希(首都大M2/都市計画)、僕、下西風澄(東大情報学環D1/哲学、身体論)、連勇太朗(慶応政策・メディア研究科D1/ 建築)。もうひとりここにはいませんが、助友文香(首都大M2/空間デザイン)の5名がメンバーです。

BJは自分の本を紹介する際に、必ずその本と前の人が紹介した本を関連づけなければいけません。ここをいかにうまくできるかがBJの腕の見せどころ。
前の人の本と自分の本の関連を1分で説明した後に、本の紹介を3分で行います。今回は石橋、僕、下西、連という順番にしました。


制限時間の1分と3分は厳守。
下の写真を見ると、机左側にiPadがあるのがわかると思います。
この時計アプリで時間を管理します。
時間超過してもプレゼンを続けると客席からはブーイングが来ます(笑)

事前にどのBJが何の本を持ってくるかは、お互い秘密にしています。
前のBJが本を紹介する3分間で、次のBJは自分の手持ちのなかからどの本を紹介するかを決めなくてはいけません。これがなかなか難しい。自分の番の10秒前までどの本を紹介するか悩むこともあります。このLIVE感こそがBook Jockeyの魅力だと思っています。

本を紹介しているときはこんな感じ。けっこう緊張感があります。


今回のイベントで紹介された本は以下の12冊です。


・1ターン目


・2ターン目


・3ターン目

1ターン目から3ターン目までノンストップで12冊を紹介します。

連⇒石橋へのターンまたぎの際は、石橋は連の紹介した本を受けて自分の本を選んでいます。2ターンから3ターンへのつなぎをみると、隈研吾が連続してます。Book Jockey的にはこれは反則かも(笑)。

リー・クアンユーとダ・ヴィンチがどう繋げられたのか、ゲーテと隈研吾はどんな関連があるのか、気になりませんか? 来てくれたお客さんのなかには、「本と本との間のインターバルの話がいちばんおもしろかった」とおっしゃる方もいました。このおもしろさはぜひLIVEで体感していただければと思います。

最後にメンバー特製の料理の写真を少し。イタリアンレストランで数年バイトをしていた連の特製ペンネです。




次回のイベント開催は6月1日(金)18時15分〜の予定です。
場所は立川のクラウドカフェ

興味がある方は僕のメールアドレス(marin.mat2 [@]gmail.com)までご連絡ください。

会場が小さいため、参加希望者多数の場合は抽選となります。
たくさんの方に興味を持っていただければ嬉しいです。

教育にとって「経験」は決定的な要素ではない。―書評:北川智子『ハーバード白熱日本史教室』―

5月20日発売、北川智子『ハーバード白熱日本史教室』を読みました。

著者の北川さんはハーバード大学で日本史を教える非常勤講師。
大学は違えど、僕と同じ世代で同じポジションにある方です。

彼女は、32歳で、女性で、非ネイティブで、アジア系で、しかも非常勤講師というビハインドをものともせず、ハーバードで最も学生に支持された講師に与えられる「ティーチング・アワード」を受賞しました。

しかも着任した2009年から3年連続で!

ハーバードで教え始めたのは29歳。それまではずっと学生で、彼女に教育経験はゼロ。そんな新人教師が1年目で名だたる名教授を押さえて「No.1教師」になったのですから、とんでもないことです。どうしてそんなことができるのか。

その理由は本を読めば一目瞭然。

彼女は、学生たちが大好きで、教えることが大好き。自分に、そして自分の授業にプライドを持つ。最大限の努力をして授業に臨む。これが彼女の高評価を支えているのです。

彼女はこんなことを言っています。

学生はみんないい顔をしている。調子良さそうにしている子はもちろん、なにかに悩んでいて寝ていなそうな子も、若いエネルギーに包まれて、みんな輝いて見える。この子たちみんなによい将来が待っていますように。バックグランドも全然違う学生たちだけど、私にとってはみんなかわいい。彼らを愛する使命をひしひしと感じた。

毎日は足早に過ぎていった。教えることは本を読むよりも、先生に質問するよりも、何よりも価値があるように思えた。私は、自分が学生に伝えたい気持ちから、学生の反応から、たまに起こるハプニングから、日々いろいろなことを学んだ。がむしゃらに、できるだけのことをした。 

楽しむことは忘れたくなかった。笑う余裕も忘れたくなかった。このクラスのオリジナリティーは、私という人間の面白さにあると信じて教室の演壇に立った。その自信だけは絶対に失ってはいけないと、いつも誓った。毎回、自分ができる最高のことをやる。できなかったことは、次に引き継ぐ。自己最高記録は、いつも更新されるべきもの。本当にがむしゃらだった。
(北川智子『ハーバード白熱日本史教室』新潮新書、2012年、49〜50ページ) 

こんな先生に出会えたら本当に最高です。人生が変わります。

教壇に立って気づいたのですが、教師がその授業にどれだけのモチベーションを持って臨んでいるか、どれだけの準備をしてきたか、というのは学生さんにすぐにわかってしまうのです。

90分間学生さんの前に立ちしゃべるということは、90分のあいだ「評価され続ける」ということです。だいたい5分くらい喋れば人間のキャラクターがわかりますから、90分となると、もはやその人の人生そのものがわかってしまうぐらいです(笑)。いやはや、教員というのは恐ろしい仕事です...。

でもそれだけの責任があるということは、当然やりがいもあります。

僕はいま文教大学で統計の入門講義を持たせてもらっています。僕の授業で「統計ってつまんないや」と思えば、その学生さんは一生統計に苦手意識を持ってしまうかもしれない。逆に興味を持ってくれれば、仕事をやっていくときに大きな武器になるかもしれない。1つの授業が、学生さんの人生に大きな影響を与えるかもしれないということです。

僕が政治学者を志したのは、いまの師匠である曽根泰教先生と上山信一先生の授業が抜群におもしろかったからです。それ以外の理由は何もありません。大学に入ったときは思想史か社会学をやろうと思ってたぐらいですから。

ひとつの授業が学生の人生を変えてしまう。おそらく北川さんはその自覚を持っているからこそ、並々ならぬモチベーションをもって授業に臨むことができるのだと思います。こんな仕事、ほかにそうそうありません。僕も最高にやり甲斐のある仕事だと思っています。

★★
この本はとても密度が濃い本です。

学部時代は数学・生命科学専攻にも関わらず、アルバイトがきっかけで大学院では日本史専攻という北川さんの不思議な研究遍歴がコミカルに紹介され、"Lady Samurai"、”KYOTO”という魅力的なタイトルをつけられたハーバードでの人気授業の内容、さまざまな授業の工夫・ノウハウが詰め込まれています。

北川さんは、本のまえがきで、自分の授業が評価された理由として、①自分の歴史へのアプローチが斬新なこと、②コンピュータをつかった体験重視の教え方が学生の心をつかんでいること、③ハーバードの授業評価システムが人気に拍車をかけていることをあげています。

僕が特に重要だと思うのは③です。

オープンで公正な授業評価システムは、良い授業をやっている先生が適正に評価されるためになくてはならないものです。教員の給料は基本的に良い授業をやっても悪い授業をやっても変わりません。つまり、良い授業をやるためのインセンティブはただただ先生の「使命感」に寄っているのです。その弱い授業改善インセンティブをフォローするためには授業評価が不可欠なのです。そして授業を選ぶときのとても重要な指標にもなります。

SFCでは、SFC-SFSという授業支援&評価システムがあります。その結果は、すべての学生と教員に公開され、かなり辛辣なコメントもそのまま掲載されます。授業評価期間中のSFCの先生たちはみんなソワソワしています(笑)。この評価システムはSFCの自慢の一つです。(また最近注目されている教育支援システムとしてマナバというものがあります)

ただそのSFC-SFSの授業評価も、学生の回答率は平均して30%くらいとかなり低く、データとしては不十分と言わざるを得ません。みんな授業評価を参考に履修を決める割には、回答をしていないのです。これに対してハーバードの授業評価の回答率は高いようで、北川さんの授業では136人中119人が回答していました。この評価回答のインセンティブもしっかりとつけることが重要です。

★★
僕がこの本を読んで勇気づけられたのは、教育にとって「経験」は決定的な要素ではないということを確信できたことです。1年目の新任講師がハーバードでNo.1になれるのですから! そして授業評価システムの重要性も再認識。日本の教育は、多くの学校でモチベーションの高い新任講師が活躍できるような環境が整えられ、質の高い授業評価システムが機能すればずっとずっと良くなるでしょう。

教育に携わるすべての人に強くお薦めできる本です。





2012年5月16日水曜日

上山先生にしごかれる〜SFC「公共政策」で講義しました〜

きのう5月14日、慶應義塾大学SFCにて、上山信一先生の「公共政策」という授業で講義をする機会を頂きました。

この授業は政策に関する基本的素養を身につけてもらうことを目標としており、履修者の多くは1年生です。

僕に与えられたテーマは「民主主義」。

授業に際して上山先生から以下の指令がありました。

  1. 受講生は大学1年生の理系を想定せよ
  2. 教科書(佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み』ちくまプリマー新書、2007年)のレベルを越えることはやるな
  3. 学説紹介は禁止

授業計画を作ってはダメ出しのくり返し。
授業までに10回以上メールのやり取りをしました。

いやはや、めちゃくちゃ多忙な先生なのですが、授業のクオリティを追求する姿勢は本当にすごい。素晴らしいトレーニングの機会になりました。この経験を文教大学での授業にも還元したいと思います。

★★

最終的に先生にOKを頂いた授業設計は以下のかたちになりました。
(その際の先生からの返信は「OK WELL DONE THANX! GOOD LUCK 」。さすが元マッキンゼー笑)

  • 授業タイトル:「民主主義のアンラーニング〜俯瞰的視点から政治を見る〜」
  • 授業構成:ワークショップ45分+講義45分

「これまで君たちが教わってきた民主主義の話をアンラーニングする。それがこの授業の目的」という宣言で授業スタート(笑)

★★

ワークショップの設計については先生からたくさん怒られました。

「君はワークショップの意義を全くわかってない。君の設計は、自分のシナリオや意見を学生に押し付けようとしているようにしか見えない。ワークショップには「正解」は必要ない。学生がまったく見当違いの議論をしていても良いんだよ。学生が自分の力で、現状から少しでもストレッチできれば良いんだ。」

これは一生ものの指摘でしたね。頭にズコーンと来ました。

★★

ワークショップのテーマは、「民主主義のフィクション性について考える」。
ここでいうフィクション性には2つの意味があります。

ひとつは、民主主義の「1人1票の原則」を「全員参加」「全員平等」のシステムと【みなす】ことで、民主主義の結果に正当性を持たせること。

もうひとつは、民主主義では、少数意見の切り捨てが起こったり、経済力がなければ選挙に出れないといった様々な問題があり、「全員参加」と「全員平等」というのは【建前】に過ぎないということ。

シンプルですが、この【みなし】と【建前】がいかにバランスするかが民主主義の本質です。【みなし】が成立しなければ民主主義はワークしないけど、それは【建前】なので、さまざまな矛盾が出てくる。それにどう向き合っていくかを考える。

小、中、高校では民主主義の【みなし】の部分しか教えてくれません。民主主義は平等を実現する最高の政治システムだという思い込みをアンラーニングするのが授業の狙いでした。

★★

ワークショップ後の講義では、オリジナルの年表を作って、民主主義の歴史と展開を説明しました。民主主義の主要論点は古代ギリシャで出尽くしているぞ、と。17〜18世紀は思想が政治を動かしていたぞ、と。そんな話をしました。

授業のレジメと年表をWebにアップしたので、ぜひご覧ください。
レジメ(Word)
年表(Word)

ワークショップのフローと講義のレジメを同じプリントに載せて配ったところ、
上山先生から一喝。

「必要ない情報を載せるな。議論の誘導になるだろ。これだから日本の教育を受けてきた奴はダメなんだ」

こえ〜〜〜!

けっきょく授業でも怒られてしまいました。いやはや、勉強になりましたよ。

ブログのタイトルに「しごき」って書きましたが、先生からすると「こんなのしごきの内に入らないし」ってところでしょうねー(笑)

いつか先生に授業指導できるようがむばるぞー