2012年6月14日木曜日

豊かさと厳しさと―書評 坂口恭平『TOKYO 0円ハウス 0円生活』

「ゼロ成長でも絆があれば豊かに生きれる」みたいな議論はヌルくて好きになれない…。
でも勝間和代的な「勝ち組になって年収10倍アップ」も説教くさくてイヤだなぁー。

そんな方にぜひ読んでいただきたいのが、
坂口恭平さんの『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫、2011年)です。

著者の坂口さんは建築家。なのですが…。
そのスタイルは僕らがイメージする「建築家」とは全く違っておもしろい。

大きな建築物をつくることには興味がない。
図面をきっちり引いたり、精巧な模型をつくることにも熱心になれない。

彼は名門で知られる早稲田の建築学科の出身。
だけど在学時代やっていたことは他の学生とは全然違ったようです。

ある日大学で「都市の再生」という課題が出たときのはなし。
既存の建物を選んでそれを改築、増築するという課題です。
坂口さんが目をつけたのは、廃墟となったマンションの貯水タンク。

坂口さんはこれを改築する、のではなく、
「ここにただ住む」というパフォーマンスをすることにした。
貯水タンクに、水と食料と発電機を持ち込み、その様子をビデオカメラに撮影。
周りの学生が図面や模型を提出するなか、映像を授業の課題として提出しました。

卒業論文では「路上住宅の百科事典」をつくったそう。
ホームレスの人たちの「棲家」を訪ね、
彼らと会話をしたり一緒に行動したりする。
そのなかで「棲家」の設計や彼らのライフスタイルを調べたようです。
(この卒論はのちに『0円ハウス』という本になりました)

★★

本書はこの卒論後、さらにフィールドワークを重ねてつくられた、
卒論の続編ともいうべきものです。

主役は「鈴木さん」という隅田川沿いの路上住宅に住むおじさん。
いわゆるホームレスなんですが…。
その生活は一言でいうと「豊か」です。

鈴木さんの家。ライトがあり、テレビがあり、ラジオがある。
定価1万五千円の高級鍋もある。簡易な風呂もある。なんでもある。
挙句の果てに、一緒に住んでいるパートナーの女性までいる。
すごい。すごすぎる。

家にあるものはすべて鈴木さんが拾って集めてきたもの。
電気はガソリンスタンドからもらってきた自動車用バッテリーでまかなう。
まさに本のタイトルにあるような「0円ハウス」。

ごはんは毎日3食、自炊をしてしっかり食べる。
毎日、焼酎を飲む。たばこも吸う。
こんな生活を川沿いに立てたビニールハウスで送ることができるんですね。

★★


鈴木さんの収入源はアルミ缶集め。
月に5万円近く稼ぐそう。
毎日6時に起きて、7時〜9時までアルミ缶を拾う。
さらに昼寝をしてから、夜8時〜1時近くまでまたアルミ缶を拾う。
これをほぼ毎日こなす。勤勉。

アルミ缶回収の方法もとても効率的で洗練されています。
みんなが集中する自動販売機やコンビニのゴミ箱は見ない。
毎日どこのエリア、どこのお店でアルミ缶が出るのかを把握しているのです。
そのうえで綿密な計画を立て、パートナーとうまくエリアや回収時間を分担する。
鈴木さんは、戦略性と合理性を兼ね備えた方ですね。
僕の師匠である上山信一がホームレスになったらこうなりそうです(笑)

さらにすごい鈴木さんのエピソード。

鈴木さんがアルミ缶回収に使うピカピカの自転車。
これは毎日川沿いを走っていた会社員に貰ったそう。
アルミ缶回収のときに挨拶をして顔見知りになったら、
彼がサウジアラビアに転勤するときに家族三人で挨拶に来て、
自転車と判子が付いた「自転車譲渡証明書」を持ってきた。
「絶対帰ってくるからそのときまで頑張ってください」と言われたんだって!
物語のような話です。

鈴木さんはお店やホテルの従業員さんや主婦と仲良くなり、
ゴミとして出たアルミ缶をとっておいてもらうことができる。
交渉の時は全部正直に、「私はこれで生計を立てていますので、もしもよろしかったら、ここのアルミ缶を毎回ください」と言う。
絶対に盗みはやらない。禁止されていることはやらない
誠実な人だー。

鈴木さんはこんな人柄なので、警察や河川を管理する国交省の職員とも仲良くなる。
少年に家をいたずらされたら警察がすぐに対処してくれる。
月に1度川に検査にきて、住宅の撤去を命じる国交省の役人も、
鈴木さんの前では申し訳なさそうに作業をする。
鈴木さん、あなたは何者なんですか(笑)

★★

本の中で、鈴木さんが
「工夫して暮らすことがとてもおもしろいからこの生活をしている」
「コンクリートの家には住みたくない」
ということを言っています。

著者の坂口さんはこの言葉を受けて、
「これらの言葉は、金銭的な価値を基準にした生活ではなく、人間的な生活をおくるために0円生活をやっているようにも取ることができる」
といっています。

僕は「金銭的な価値を基準にした生活」が「人間的な生活」でないとは思いません。
でも、鈴木さんの「工夫して暮らす」という生き方は豊かな生き方だと思います。
彼は自由で、自分の生活に納得して生きているように見えます。
それは直感的に良い生き方だなぁと思います。

河川敷の国有地に住むことは違法だし、
彼を迷惑に思っている人も少なくないかもしれない。
それでもこの本の読者は鈴木さんの生き方を肯定したくなるでしょう。

でもよくよく考えてみると、鈴木さんみたいな人ってもともとどうやったって良い生き方をできるのではないか、とも思うのです。

鈴木さんは仕事ができるし、誠実だし、コミュニケーション能力が高い。
こんな人がホームレス生活してるというのは、超レアケースだと思います。
鈴木さんが会社を興したら成功できたのではないでしょうか。

仕事がちゃんとできなくて、不誠実で、コミュニケーション能力が低い、鈴木さんの逆のような人がホームレスになってしまう。

僕はこの本を読み、ホームレスとして「豊かな」暮らしができる鈴木さんは、とっても強い人で、このように生きれる人はやはりごくごく少数なのだろうなぁという「厳しい」現実を目の当たりにした気分になりました。

★★

でも、このような感想を持つことと、この本がとてもおもしろく重要な作品であることとは別の問題です。

坂口さんが鈴木さんと信頼関係を築き、丹念なフィールドワークを重ねて、鈴木さんの快適な「0円ハウス」と豊かな「0円生活」を描き出したのは本当に見事です。

この本には僕らが見ておいたほうがいい「もうひとつの日本」が描かれています。

2012年6月4日月曜日

第2回!院生によるBook Jockyイベント開催!

先週の金曜日に、第2回Book Jockeyイベントを開催しました。
(前回の様子はこちらです)














そこで僕が紹介した本をご紹介します!


★★
1.高橋秀実『からくり民主主義』(新潮文庫、2009)【620円】
僕が知るなかでもっとも読みやすく、かつ本質をついた民主主義本です。

民主主義の「フィクション性」をゆるいタッチで描いてますが、
その急所をしっかりと突いている。著者のジャーナリスト魂が光ります。

意外や意外、この本の解説はあの村上春樹。内容も素晴らしい。
解説から読み始めると、著者との距離がぐっと近づくはず。
(この本は以前ブログで取り上げました)

2.山本七平『空気の研究』(文春文庫、1983)【490円】
よく「空気を読む」といいますが、そのときの「空気」って何だろう?
そんな疑問に挑んだ歴史的名著です。

著者は「空気」が発生するメカニズムを、「対立概念で対象を把握することの排除」に見ました。
本来相対的に検討すべき複数のことがらのうち、ひとつを絶対的な存在へとあがめ奉り、その他を全面的に排除するということです。

日本では空気で物事が決まるといいます。
僕は自分がそんな状況に直面したときも、この本の内容を思い出せば、空気をひっくり返せるような気がしてきます。

空気を読みたい人にも、読みたくない人にもおすすめです。

(こちらも以前ブログで取り上げました)

3.イェーリング『権利のための闘争』(岩波文庫、1982)【567円】

僕は高校時代にこの本を読みました。
あまりに感動して、一時期この本の題名をメールアドレスにしていました(イタい)。

そんな思い入れのある本です。

「権利のために闘うことは、自分だけではなく、国家や社会に対する義務である」
こんな熱(苦し)いメッセージを前面に出した本です。

以前、僕の師匠が、「民主主義は『俺がやらなくて誰がやる』って人がどれくらいいるかで決まるんだ」と言っているのを聞いて、
この本のことを思い出しました。

自分のために、あるいは誰かのために闘うときに勇気をくれる本だと思います。
★★


第3回  6月15日(金)のイベントはこちらから申し込みできます。
ご参加をお待ちしておりまーす(^o^)





2012年6月3日日曜日

中学校で原発問題の授業をお手伝い(父と共演)

先日のブログで、杉並区立和田中学校の総合学習の授業をお手伝いしているとご紹介しました。

その授業が、今週の木曜日(28日)にありました。

テーマは「~原子力発電所、再稼動させる?させない?~」。
和田中学校の3年生が対象です。(授業の詳細はこちら)

授業詳細のリンク先に飛んでもらえればわかるのですが、
この授業のゲスト講師の1人はうちの父!

こんな感じで親子共演しましたよ〜。



それはおいといて(笑)。

ちょうど28日の新聞各紙の1面はすべて「首相、大飯原発再稼働容認へ」。
いいタイミングで授業が組めました。

授業は45分授業を2コマ連続でやります。
体育館に3年生の全クラス140名が集まります。

みんな椅子をもってぞろぞろと体育館に集合。
なんか懐かしい感じ(笑)




まずは校長から生徒たちに問題が出されました。

「福島原発の事故前に、日本の総電力に占める原子力発電の割合はどれくらいだったか?」
「現在、日本には稼動可能な原子力発電所はいくつある?」






答えは30%と、50基。みんな悩み顔。
答えを知っていた生徒は少なかったみたいです。

ここで第一回目のアンケート。

「政府が安全と判断した場合、原子力発電所を再稼動させてもよいか? 再稼働すべきではないか?」の択一問題です。みんな真剣に回答してます。


次にグループになって、専門家への質問を考えるために話し合います。
さすが1年生からこの授業を受けているだけあって、みんなスムーズに議論をスタート。これには驚きました。





5分の議論のあと、各グループの代表が質問を発表。
質問はプロジェクターに写します。



それに対して専門家が回答。

下は原発の構造を説明する父。難しい内容でしたが、みんなメモをとりながらしっかり聞いてます。


今回は原発再稼働の安全性基準についての質問には父が回答、原発停止が経済に与える影響については中央電力の中村さんが回答しました。

専門家の回答が終わったところで、前半の45分が終了。
10分の休憩に入ります。

すごいのが休憩中も生徒さんが質問に来ていたこと。授業に対するモチベーションが高い。


休憩が終わり、次に登場するのがコレ。iPad。


専門家の説明を受けて、 iPadを使って4名でグループワークをします。



グループワークでは、グループで再稼働賛成、反対を話し合い、グループでの結論を出します。違う意見を持った生徒が着地点を探りながら、意見調整をします。

そして議論の結論&その理由をiPadに入力すると、
それが先生のPCに送られ、各グループの結論が一覧に!
このシステムは富士通に開発してもらったそうです。


気になる結果は 、なんと「稼働賛成」50%、「稼働反対」50%。
全36グループが18対18で割れたから驚きました。

専門家と質疑応答をして、グループでじっくり話し合った結果、原発再稼働についての中学生の意見は真っ二つに割れました。これは軽視できない結果でしょう。

政府は政治判断で大飯原発の再稼働容認に動き、強硬に反対していた橋下市長も「負けといえば負け」と言って、事実上の再稼働容認を表明しました。


でも世論調査を見ると、原発の周辺自治体と大阪市では「反対」とする答えがいずれも半数を超えてるんですねぇ。

僕は再稼働容認派ですが、生徒たちの議論や世論調査の結果を見ると、政府の「政治決断」の正当性っていったい何なんだろうと考えてしまいます。

政治家がこの問題を必死に考えていることは間違いないですが、政治家に決断を任せているだけでは、国民がその結果に納得できるのでしょうか。中学生だけじゃなくて大人もじっくり考える機会が必要だと思います。

閑話休題。

最後に授業前の打ち合わせの話。

なんと代田校長先生のポケットマネーで給食をご馳走になりました。

メニューは親子丼、豚汁、きゅうりのナムル風、牛乳。
1食303円とのこと。



これが美味してびっくり。話を聴いてみたら、以前給食で文部科学省表彰を受けたことがあるそうです。和田中はなんでも一番にならないと気がすまないのか(笑)




給食を食べながら打ち合わせ中の代田校長先生(手前)と、ゲスト講師である中央電力の中村誠司社長(左)と、うちの父でーす。


2012年5月28日月曜日

和田中学校で授業のお手伝いしてます。


今年度から、杉並区立和田中学校の総合学習授業の設計に関わっています。

今日も打ち合わせで和田中に行って来ました。

校長室で打ち合わせをしていたのですが、それが終わると、生徒たちが校長室に雪崩れ込んできました。下は椅子をとられて困っている校長先生。


和田中学校の校長室は基本的にオープンで、生徒でも気軽に出入りできます。マンガも置いてあります。校長先生と生徒の距離はめちゃくちゃちかいです。下は生徒が校外学習でつくった干物をお土産でもらい喜んでいる校長先生(顔ぶれぶれ)。



★★
和田中学校は、リクルート出身の藤原和博さんが民間校長を務めていたことで有名です。

藤原さんは、都内初の公立中学校の民間校長として、PTAの廃止、大手の進学塾講師を学校に招いて有料で補習授業を行なう「夜スペ」や、地域の大人を授業に巻き込み自営業者やホームレスを講師に迎える「よのなか科」などを実施し、公立学校の常識を覆してきました。

いやはや、規則と慣習でガッチガチの公立学校でこれをやったのは本当にすごい。よく考えると、リクルート×公立中学校っていちばんミスマッチな関係のような・・・笑 藤原さんが校長に着任した時点で革命は始まっていたのでしょうねぇ。

★★
藤原さんは2008年3月に退任され、後任には再びリクルート出身である代田昭久さんが就任されました。僕はこの代田先生とともに「よのなか科next」という授業の企画設計をしています。

この授業は総合的な学習の時間に行います。3年生は、隔週で2コマずつ約25回(年間約50コマ)、1,2年生は、月1回の年間10コマをよのなか科nextに使っています。

なぜ僕が「よのなか科next」のお手伝いをすることになったのかというと、この授業と、僕の研究対象である「討論型世論調査」の設計思想が非常に似通っていたからです。僕の親しい後輩が研究の関係で和田中学校に出入りをしていて、討論型世論調査とよのなか科nextの親和性に気づいて、僕と代田先生を引き合わせてくれたのです。

「よのなか科next」は、「今の生徒たちが10年後、必ずや直面し解決していかなくてはならない社会の重要なテーマ」について、個別学習・グループ学習・全体学習を組み合わせて、生徒の【考える力】【伝える力】【聴く力】を伸ばし、社会で活躍するために必要となる、【他者と対話する力】を培うことを目的としています。

他方で討論型世論調査の目的は、世の中で意見が対立している政策課題について、一般の市民が【話し】、【学び】、【考える】というプロセスを体験することで、その問題についてじっくりと自分の考えを深める機会を提供することにあります。具体的にはランダムサンプリングを経て200〜300人の市民を集め、資料やデータの提供、市民同士の討論、専門家との質疑応答という「熟議」の機会を提供して、熟議の前後で市民の意見がいかに変化したのかを検証します。

僕は2009年の秋から曽根泰教先生のもとで討論型世論調査の企画設計や運営に関わってきました。2010年には藤沢市で2度の調査を行い、2011年には日本で初めて全国規模での調査を実施しました。この調査で得たノウハウで誰かのお役に立てないかなと思っていたところ、代田先生と出会ったというわけです。運が良かったです。

★★
今年度の「よのなか科next」では、これまで「風評被害問題」と「がれき処理問題」を扱いました。がれき処理問題の回はNHKのニュース9などで取り上げられました。(こちらのブログで報道の様子が紹介されています)

よのなか科nextでのアンケート結果は後日分析を行い、公表する予定です(代田先生や研究パートナーと相談中)。また、よのなか科nextの授業によって生徒たちにどのような変化が生まれたのかも、継続的にアンケートをとって検証していきます。

次回の「よのなか科next」は原発再稼働問題。現在鋭意準備中です。こちらのブログでも授業の内容をご紹介できればと思っています。

最後に校長先生と生徒さんたちの写真を一枚。

こういう雰囲気の学校だから、心から「お役に立ちたい!」と思えるのでしょうねぇ。

それはそうと、頭に巻いてるのは何だろう?(笑)





2012年5月21日月曜日

「本を肴に、美味しいお酒と料理を楽しむ」イベントを開催しました

先週18日(金)、院生仲間5人でイベントを開催しました。

イベントのコンセプトは「本を肴に、美味しいお酒と料理を楽しむ」。
立川の小さなカフェを借りて、2週に1回のペースで3ヶ月ほどイベントをやっていきます。

会場はこんな場所。定員は15人ほど。


リビング・ダイニング風のキッチン。メンバーが料理を振る舞います。


飲み物のメニューとイベントのご挨拶。


紹介する予定の本はこんな感じでディスプレイ。


このイベントの中心は”Book Jockey”という本のレコメンド手法です。
(手法といっても僕らがこのあいだ考案したもので、全く広まってません笑)
Book Jockeyは、DJが音楽をremixして途切れなく音楽を流していくのと同じイメージで、数人のBook Jockey(BJ)が1人3分で自分が選んだ本を紹介し、それを途切れなく連続で行なっていくというものです。

ここに並んでいる4人がBJです。
ビールを片手になごやかな雰囲気。


いちばん右から石橋一希(首都大M2/都市計画)、僕、下西風澄(東大情報学環D1/哲学、身体論)、連勇太朗(慶応政策・メディア研究科D1/ 建築)。もうひとりここにはいませんが、助友文香(首都大M2/空間デザイン)の5名がメンバーです。

BJは自分の本を紹介する際に、必ずその本と前の人が紹介した本を関連づけなければいけません。ここをいかにうまくできるかがBJの腕の見せどころ。
前の人の本と自分の本の関連を1分で説明した後に、本の紹介を3分で行います。今回は石橋、僕、下西、連という順番にしました。


制限時間の1分と3分は厳守。
下の写真を見ると、机左側にiPadがあるのがわかると思います。
この時計アプリで時間を管理します。
時間超過してもプレゼンを続けると客席からはブーイングが来ます(笑)

事前にどのBJが何の本を持ってくるかは、お互い秘密にしています。
前のBJが本を紹介する3分間で、次のBJは自分の手持ちのなかからどの本を紹介するかを決めなくてはいけません。これがなかなか難しい。自分の番の10秒前までどの本を紹介するか悩むこともあります。このLIVE感こそがBook Jockeyの魅力だと思っています。

本を紹介しているときはこんな感じ。けっこう緊張感があります。


今回のイベントで紹介された本は以下の12冊です。


・1ターン目


・2ターン目


・3ターン目

1ターン目から3ターン目までノンストップで12冊を紹介します。

連⇒石橋へのターンまたぎの際は、石橋は連の紹介した本を受けて自分の本を選んでいます。2ターンから3ターンへのつなぎをみると、隈研吾が連続してます。Book Jockey的にはこれは反則かも(笑)。

リー・クアンユーとダ・ヴィンチがどう繋げられたのか、ゲーテと隈研吾はどんな関連があるのか、気になりませんか? 来てくれたお客さんのなかには、「本と本との間のインターバルの話がいちばんおもしろかった」とおっしゃる方もいました。このおもしろさはぜひLIVEで体感していただければと思います。

最後にメンバー特製の料理の写真を少し。イタリアンレストランで数年バイトをしていた連の特製ペンネです。




次回のイベント開催は6月1日(金)18時15分〜の予定です。
場所は立川のクラウドカフェ。

興味がある方は僕のメールアドレス(marin.mat2 [@]gmail.com)までご連絡ください。

会場が小さいため、参加希望者多数の場合は抽選となります。
たくさんの方に興味を持っていただければ嬉しいです。

教育にとって「経験」は決定的な要素ではない。―書評:北川智子『ハーバード白熱日本史教室』―

5月20日発売、北川智子『ハーバード白熱日本史教室』を読みました。

著者の北川さんはハーバード大学で日本史を教える非常勤講師。
大学は違えど、僕と同じ世代で同じポジションにある方です。

彼女は、32歳で、女性で、非ネイティブで、アジア系で、しかも非常勤講師というビハインドをものともせず、ハーバードで最も学生に支持された講師に与えられる「ティーチング・アワード」を受賞しました。

しかも着任した2009年から3年連続で!

ハーバードで教え始めたのは29歳。それまではずっと学生で、彼女に教育経験はゼロ。そんな新人教師が1年目で名だたる名教授を押さえて「No.1教師」になったのですから、とんでもないことです。どうしてそんなことができるのか。

その理由は本を読めば一目瞭然。

彼女は、学生たちが大好きで、教えることが大好き。自分に、そして自分の授業にプライドを持つ。最大限の努力をして授業に臨む。これが彼女の高評価を支えているのです。

彼女はこんなことを言っています。

学生はみんないい顔をしている。調子良さそうにしている子はもちろん、なにかに悩んでいて寝ていなそうな子も、若いエネルギーに包まれて、みんな輝いて見える。この子たちみんなによい将来が待っていますように。バックグランドも全然違う学生たちだけど、私にとってはみんなかわいい。彼らを愛する使命をひしひしと感じた。

毎日は足早に過ぎていった。教えることは本を読むよりも、先生に質問するよりも、何よりも価値があるように思えた。私は、自分が学生に伝えたい気持ちから、学生の反応から、たまに起こるハプニングから、日々いろいろなことを学んだ。がむしゃらに、できるだけのことをした。 

楽しむことは忘れたくなかった。笑う余裕も忘れたくなかった。このクラスのオリジナリティーは、私という人間の面白さにあると信じて教室の演壇に立った。その自信だけは絶対に失ってはいけないと、いつも誓った。毎回、自分ができる最高のことをやる。できなかったことは、次に引き継ぐ。自己最高記録は、いつも更新されるべきもの。本当にがむしゃらだった。
(北川智子『ハーバード白熱日本史教室』新潮新書、2012年、49〜50ページ) 

こんな先生に出会えたら本当に最高です。人生が変わります。

教壇に立って気づいたのですが、教師がその授業にどれだけのモチベーションを持って臨んでいるか、どれだけの準備をしてきたか、というのは学生さんにすぐにわかってしまうのです。

90分間学生さんの前に立ちしゃべるということは、90分のあいだ「評価され続ける」ということです。だいたい5分くらい喋れば人間のキャラクターがわかりますから、90分となると、もはやその人の人生そのものがわかってしまうぐらいです(笑)。いやはや、教員というのは恐ろしい仕事です...。

でもそれだけの責任があるということは、当然やりがいもあります。

僕はいま文教大学で統計の入門講義を持たせてもらっています。僕の授業で「統計ってつまんないや」と思えば、その学生さんは一生統計に苦手意識を持ってしまうかもしれない。逆に興味を持ってくれれば、仕事をやっていくときに大きな武器になるかもしれない。1つの授業が、学生さんの人生に大きな影響を与えるかもしれないということです。

僕が政治学者を志したのは、いまの師匠である曽根泰教先生と上山信一先生の授業が抜群におもしろかったからです。それ以外の理由は何もありません。大学に入ったときは思想史か社会学をやろうと思ってたぐらいですから。

ひとつの授業が学生の人生を変えてしまう。おそらく北川さんはその自覚を持っているからこそ、並々ならぬモチベーションをもって授業に臨むことができるのだと思います。こんな仕事、ほかにそうそうありません。僕も最高にやり甲斐のある仕事だと思っています。

★★
この本はとても密度が濃い本です。

学部時代は数学・生命科学専攻にも関わらず、アルバイトがきっかけで大学院では日本史専攻という北川さんの不思議な研究遍歴がコミカルに紹介され、"Lady Samurai"、”KYOTO”という魅力的なタイトルをつけられたハーバードでの人気授業の内容、さまざまな授業の工夫・ノウハウが詰め込まれています。

北川さんは、本のまえがきで、自分の授業が評価された理由として、①自分の歴史へのアプローチが斬新なこと、②コンピュータをつかった体験重視の教え方が学生の心をつかんでいること、③ハーバードの授業評価システムが人気に拍車をかけていることをあげています。

僕が特に重要だと思うのは③です。

オープンで公正な授業評価システムは、良い授業をやっている先生が適正に評価されるためになくてはならないものです。教員の給料は基本的に良い授業をやっても悪い授業をやっても変わりません。つまり、良い授業をやるためのインセンティブはただただ先生の「使命感」に寄っているのです。その弱い授業改善インセンティブをフォローするためには授業評価が不可欠なのです。そして授業を選ぶときのとても重要な指標にもなります。

SFCでは、SFC-SFSという授業支援&評価システムがあります。その結果は、すべての学生と教員に公開され、かなり辛辣なコメントもそのまま掲載されます。授業評価期間中のSFCの先生たちはみんなソワソワしています(笑)。この評価システムはSFCの自慢の一つです。(また最近注目されている教育支援システムとしてマナバというものがあります)

ただそのSFC-SFSの授業評価も、学生の回答率は平均して30%くらいとかなり低く、データとしては不十分と言わざるを得ません。みんな授業評価を参考に履修を決める割には、回答をしていないのです。これに対してハーバードの授業評価の回答率は高いようで、北川さんの授業では136人中119人が回答していました。この評価回答のインセンティブもしっかりとつけることが重要です。

★★
僕がこの本を読んで勇気づけられたのは、教育にとって「経験」は決定的な要素ではないということを確信できたことです。1年目の新任講師がハーバードでNo.1になれるのですから! そして授業評価システムの重要性も再認識。日本の教育は、多くの学校でモチベーションの高い新任講師が活躍できるような環境が整えられ、質の高い授業評価システムが機能すればずっとずっと良くなるでしょう。

教育に携わるすべての人に強くお薦めできる本です。





2012年5月16日水曜日

上山先生にしごかれる〜SFC「公共政策」で講義しました〜

きのう5月14日、慶應義塾大学SFCにて、上山信一先生の「公共政策」という授業で講義をする機会を頂きました。

この授業は政策に関する基本的素養を身につけてもらうことを目標としており、履修者の多くは1年生です。

僕に与えられたテーマは「民主主義」。

授業に際して上山先生から以下の指令がありました。

  1. 受講生は大学1年生の理系を想定せよ
  2. 教科書(佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み』ちくまプリマー新書、2007年)のレベルを越えることはやるな
  3. 学説紹介は禁止

授業計画を作ってはダメ出しのくり返し。
授業までに10回以上メールのやり取りをしました。

いやはや、めちゃくちゃ多忙な先生なのですが、授業のクオリティを追求する姿勢は本当にすごい。素晴らしいトレーニングの機会になりました。この経験を文教大学での授業にも還元したいと思います。

★★

最終的に先生にOKを頂いた授業設計は以下のかたちになりました。
(その際の先生からの返信は「OK WELL DONE THANX! GOOD LUCK 」。さすが元マッキンゼー笑)

  • 授業タイトル:「民主主義のアンラーニング〜俯瞰的視点から政治を見る〜」
  • 授業構成:ワークショップ45分+講義45分

「これまで君たちが教わってきた民主主義の話をアンラーニングする。それがこの授業の目的」という宣言で授業スタート(笑)

★★

ワークショップの設計については先生からたくさん怒られました。

「君はワークショップの意義を全くわかってない。君の設計は、自分のシナリオや意見を学生に押し付けようとしているようにしか見えない。ワークショップには「正解」は必要ない。学生がまったく見当違いの議論をしていても良いんだよ。学生が自分の力で、現状から少しでもストレッチできれば良いんだ。」

これは一生ものの指摘でしたね。頭にズコーンと来ました。

★★

ワークショップのテーマは、「民主主義のフィクション性について考える」。
ここでいうフィクション性には2つの意味があります。

ひとつは、民主主義の「1人1票の原則」を「全員参加」「全員平等」のシステムと【みなす】ことで、民主主義の結果に正当性を持たせること。

もうひとつは、民主主義では、少数意見の切り捨てが起こったり、経済力がなければ選挙に出れないといった様々な問題があり、「全員参加」と「全員平等」というのは【建前】に過ぎないということ。

シンプルですが、この【みなし】と【建前】がいかにバランスするかが民主主義の本質です。【みなし】が成立しなければ民主主義はワークしないけど、それは【建前】なので、さまざまな矛盾が出てくる。それにどう向き合っていくかを考える。

小、中、高校では民主主義の【みなし】の部分しか教えてくれません。民主主義は平等を実現する最高の政治システムだという思い込みをアンラーニングするのが授業の狙いでした。

★★

ワークショップ後の講義では、オリジナルの年表を作って、民主主義の歴史と展開を説明しました。民主主義の主要論点は古代ギリシャで出尽くしているぞ、と。17〜18世紀は思想が政治を動かしていたぞ、と。そんな話をしました。

授業のレジメと年表をWebにアップしたので、ぜひご覧ください。
⇒レジメ(Word)
⇒年表(Word)

ワークショップのフローと講義のレジメを同じプリントに載せて配ったところ、
上山先生から一喝。

「必要ない情報を載せるな。議論の誘導になるだろ。これだから日本の教育を受けてきた奴はダメなんだ」

こえ〜〜〜!

けっきょく授業でも怒られてしまいました。いやはや、勉強になりましたよ。

ブログのタイトルに「しごき」って書きましたが、先生からすると「こんなのしごきの内に入らないし」ってところでしょうねー(笑)

いつか先生に授業指導できるようがむばるぞー