(埼玉新聞)北本市・住民投票 新駅「反対」が過半数。計画白紙撤回へ
今日は全国ニュースでも、この話題が取り上げられていますね。
僕が北本市とちょっとした関わりがあるため、このおもしろい住民投票について簡単に解説させていただきます〜。
今回の北本市での住民投票は、かなり異例づくしの事例となりました。
【異例1. 新駅「推進派」の市長が住民投票の実施を決定した】
ふつう住民投票というのは、行政の施策に反対する住民、市民団体などが「住民投票を実施せよ!」と声をあげて、それを行政や議会が突っぱねるというのが基本構図ですが(今年5月の東京・小平市での住民投票はまさにこれ)、北本のケースは、市長主導で住民投票が行われました。これは極めて珍しい事例といえます。
【異例2.「新駅はいらない」という投票結果】
駅は生活インフラの基盤で、「ないよりあったほうがいい」と考えるのがふつうだと思います。
特に北本のようなベッドタウンの人々にとっては、少しでも自宅に近いところに駅ができれば嬉しい、さらにその駅周辺に商業施設ができれば更に嬉しい、と考える人が多いだろうと思うのです。
しかし、住民投票結果はまさかの「反対」多数。新駅建設の市の財政負担が50億超と、北本市の財政規模から見ると非常に大きい(北本市の今年度予算は203億円)ことなどを市民の皆さんは問題視したようです。
この結果は、北本市民が新駅ができるというわかりやすい目先の利益をとるのではなく、将来の財政破綻というリスクの回避をとったとみることができると思います。
行動経済学の研究では、人間は短期的な利益を過大に評価し、中長期のリスクを過小に評価する傾向があることが明らかにされているのですが(cf.カーネマン『ファスト&スロー』早川書房)、北本の住民投票の結果それとは逆でこれまたびっくりしました。
【異例3. 市長が即「白紙撤回」を表明】
北本市長は、住民投票の結果判明後の記者会見で、新駅計画の「白紙撤回」を表明しました。
住民投票は、法的拘束力がある「拘束型」と、法的拘束力がない「諮問型」に分けられるのですが、北本の住民投票は後者です。
住民投票をやったからには結果を尊重するのが当たり前ですが、この結果には法的拘束力がないので、極端にいえば掌を返して「これは真の民意ではない」と言ってごねたっていいわけです。
調べてみると、北本市の新駅建設は1980年代からの悲願だったようです。市長も選挙公約の目玉にしていたとのこと。
これなら尚更、住民投票結果には抵抗してもいいはずです。
【なぜ市長は住民投票を行った?】
ではなぜ北本市長はリスクを負って住民投票を行い、さらに新駅「反対」の結果を即座に受け入れたのでしょうか。
有力な仮説は、「市長は負けるとは思っていなかった」というものでしょう。
しかし、僕はこれは違うと思います。ふつうの首長であれば負ける可能性が少しでもあれば、わざわざ住民投票をするというリスクは冒さないでしょう。
僕の仮説はシンプルで、北本市長が「住民の意見を行政運営にできるだけ取り入れるべき」という信念の持ち主だから、というものです。
そんな綺麗事かよ!笑 って思われたかもしれませんが、これには理由がありまして・・・。
僕のこの仮説は、北本市長がこれまでにやってきた取り組み、そして市長と直接議論したときの印象に寄るものです。
僕は今年3月に、埼玉新聞の小川社長にご紹介いただいて、北本市長にお会いし、北本市で新たに始められた「きたもと市民会議」という取り組みについてのヒアリングを行いました。
「きたもと市民会議」は18歳以上のすべての北本市民を対象とした、政策のウェブ人気投票を行い、そこで上位となった政策を次年度の予算案に組み込むという、前例のないめちゃくちゃラディカルな取り組みです。
こんなことをやっちゃう市長ってどんな人だと思ったら、やっぱり面白い方だったんですよね。
ヒアリングのなかで市長の信念がもっとも現れていると思ったのは、2012年のきたもと市民会議の結果で、「北本駅前広場の防犯カメラ設置」という政策がトップとなったときのお話でした。
市長は当初「駅という市の玄関口に防犯カメラを置くことは市のイメージにとって良くない」と思っていたそうなのですが、きたもと市民会議の結果を受けて、警察関係者や職員などと議論を重ねて、「市民の言うとおり、防犯カメラはあったほうがいいと思い、意見を変えた」と仰ってました。そして防犯カメラの設置予算を2013年度予算に組み入れたそうです。
僕との議論のなかでも「間接民主制の仕組みのなかで、市民の意見を直接的にどこまで取り入れていいのか。難しい問題だけど、ギリギリのところに挑戦したい」と仰っていたのがとても印象的でした。
今回の住民投票も、市長のこのような考えを背景にしているのではないかと考えています。
【最後に】
朝日新聞が今回のニュースを「石津賢治市長は建設推進の立場から、巨費投入にお墨付きを得ようと市民に判断を委ねたが、目算が外れた」と報じています。
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この朝日の分析こそが通常の見方だと思いますが、僕はあえて、市長は勝てる目算なんか関係なしに、ただ純粋に、「市の将来を左右する一大事について住民の意見を聞かないなんてあり得ない」という信念から住民投票を行ったはずだ、と言いたいです。
北本市長は、こんな政治家らしくない綺麗事で説明したくなるような、そんな方でした。
(最後まで書いてみて、なんかファンレターみたいな内容になってしまったことに気づく。トホホ。)
※写真は今年3月に撮影したものです。右側が石津賢治 北本市長、中央が松原、左側が小川秀樹 埼玉新聞社 社長。